「秋元さんが、死んでる。」
「おいおい、朝からやめようぜ。からかうの・・・・」
プツッ・・・・・・
「もしもし もしもし ・・・・もしもし・・・・」
嘘だろ、笑えない。
おかしい、秋元さんの電話なのに間違いなく女性の声だ。
それも聞き覚えのある声。
分からない、とにかくストロベリーズに向かうしかない。
扉を開けるまでに15分とかからなかっただろう。
「嘘だろ・・・」
店の奥の秋元さんがいつも居る場所に、いつものように座っている。
力なくうつ伏せに・・・・・・・・・
どうしようもなく心が痛くなった。
なぜなら、秋元さんの白いTシャツが真っ赤に染まっている・・・。
僕は、あせっていない。
すごく痛い。
痛いが、まだなにも受け止められない。
体が動かない。
「秋元さん!秋元さん!」
・・・・・・ なにも返ってこない ・・・・・・
くやしい、涙があふれる。
ゆるせない。
警察が来るまで僕は、つっ立ったままあなたを見ていた。
その後ろで久実ちゃんが呆然と立ち尽くしていた。
涙するわけでもなく。
0:00・・・・・
僕と岡谷は、盛り上がるみんなを横目に、その場を後にすることにした。
「じゃあ、復活ライブがんばろうぜ!気を付けて帰れよ!」
僕は、岡谷に声をかけ別れた。
蒸し暑い街中を歩き始めたとき、ふと見覚えのある車が僕の目に映った。
ストロベリーズのすぐ脇にある駐車場に、久実ちゃんの車が止まっている。
なんとなく気になり、近くまでいってみたがやはりいるはずはなかった。
僕は、また歩き始めた。
0:30・・・・・
一方岡谷は、駐車場にたどり着いた。
小柄な女性が、目に入る。
いやな予感と同時に、女性が誰なのかすぐにわかった。
「こんな夜中に、どおしたの。」
岡谷が聞くと女性が答えた。
「どおして連絡くれない、私何回もメールした。」
「私の事、嫌いか。私、岡谷の事、好き。」
「毎日、連絡待ってた。どおしてくれない。」
昼間見る彼女とは、まる別人のようだと岡谷は思った。
「とりあえず家の中で話そう。」
こんな所を、近所の人に見られたら非常にめんどくさいと思い、とっさに口ばしってしまった。
彼の人生は、この一言によって、大きく狂わされる事になるとは、まるで思いもしていなかっただろう。
アルコールと言葉の威圧によって、岡谷の頭は、今にもはじけそうな状態まで追い詰められていた。
何を言ってもまともに反応できない彼女に、限界を感じてしまったその瞬間、不覚にも彼女の胸ぐらを掴んで思ってもいない罵声を浴びせてしまった・・・
謝るまでもなく岡谷の胸元から真っ赤な血が、流れはじめた。
幾度となく彼女の悲鳴と共に岡谷は、床に崩れ落ちた。
この瞬間、僕達の復活ライブは、永久に行われることはなくなった。
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秋元さん 店長の平山さんも加わり、とめどもない平和な夜が始まった。
2時間ほど経っただろうか。
みんながうつろになり始めたころ、店の扉が開き2人の女性が入ってきた。
「 オゥ、さちゃん ともちゃん 」
偶然なのか、誰かが呼んだのか定かではないが、楽しくて大きな声を出してしまった。
とてつもなく自然の流れのように、二人はとけ込み、すてきな夜の始まりに乾杯した。
誰一人、この出来事が、まったく自然な出来事でないことに気づかずに・・・
その後、僕達はタクシーを2台呼び、秋元さんの店であるストロベリーズに向かった。
なぜかあの場所は、みんなにとってとても居心地の良い場所なのである。
個々に好きな酒を飲み、少しクーラーのききすぎた店内で、ギターの音が響きわたる。
22:00・・・
ふと僕は、不思議なことに気付いた。
そう、いつもストロベリーズで飲むときは、久実ちゃんがいるのに・・・。
「秋元さん、久実ちゃん来ないんですか?いつも居るのに、どうも物足りない気がするんですけど。」
「連絡したんだけどね・・・」
秋元さんは、小声でそう答えただけだった。