今回の事件で僕達は、たくさんの仲間を失った。
また、たくさんの人の夢や希望、可能性も同時に失った。
何処から感情を整理していけばいいのかさえ分からない。
涙など流したところで、僕達の心は変わりはしない。
どうすればこの苦しさや切なさから開放されるのかなど、誰も想像できないだろう。
岡谷が逮捕されて1週間ほどして僕は店を再開した。
すこぶる気分は悪いが、何もしないよりは気が紛れた。
タイの女性もすぐに捕まったらしい。
やはりさっちゃんの遺書にあった通りの供述だったようだ。
僕は、もう事件の真相がどうであろうと、興味がなかった。
岡谷の事は少し気になったが、平山さん曰く「証拠も不十分なので実刑にはならないだろう」との事だった。
岡谷が戻ってきたらすぐピースの練習を始めようと、あつしさんとげんゆうさんに伝えると、二人とも快く了解してくれた。
誰も来ないまま深夜0時が過ぎた。
もう閉めようと思いとりあえず店の郵便ポストを確認した。
どうでもいいダイレクトメールと電話料金の請求書の中に大きめの茶封筒があった。
送り主の名前はない。
不思議に思い、すぐさま開けてみた。
メモリーカードが一枚入っているだけで、それ以外のものは何もなかった。
胸騒ぎと共に、少し前まで感じていた苦しみが再びこみ上げてきた。
店の中に戻り、パソコンの電源を入れメモリーカードをセットした。
やはり予感は的中した。
秋元さんのパソコンに入っていた密輸についてのものと同じものだ。
「誰なんだ!何のために!なんで今更僕の所に…」
読み進むにつれ、いかに完璧な方法を見出したかが分かってきた。
僕ですら秋元さんに誘われたら断れなかったかもしれない。
きっと、小さな油断と驕(おご)りのせいで秋元さんは死ぬ事になったのだろう。
もしかすると僕ならうまくやれたかもしれない…
一番最後のページに、後から書き足されたと思われる一文があった。
多分、東南アジアの言語だろう。
その言葉をメモして、パソコンを閉じた。
次の日、言葉の意味を解読してみた。
内容はこうだ。
『一年後にもう一度、この計画をもっとうまく実行してみないか。私たちと一緒に』
END
3日後、原田ちゃんから連絡があった。
やはり思った通り、例のファイルが隠されていた。
セブンドリームについての詳しい情報、入手ルートと複雑な輸入方法、販売方法、顧客リスト、入金管理など。
うまくいっていれば数ヶ月で数千万円の儲けにはなるだろう。
しかし、こんな大掛かりな事は、少人数で実行できるのだろうか?
間違いなくトモちゃんは仲間だったのだと思う。
そしてトモちゃんを殺したのも仲間だろう。
しかしセブンドリームで稼ぐ事は、3人では間違いなく不可能だ。
まだ何人かいる・・・・・・・・。
秋元さんが殺される前に、おかしな行動や怪しい動きがなかったか、久実ちゃんならなにか思い出すかもしれない。
「もしもし、久実ちゃん。武内です、今から会えないかな?」
「ストロベリーズに居るので、待ってます。」
15分で行くと伝え電話を切り、急いでストロベリーズに向かった。
いつもと違う秋元さんが必ず見つかると信じて。
僕達は、2、3ヶ月前からの秋元さんの行動ををたどった。
久実ちゃんは、かすかな記憶を頼りに思い出すすべての事を僕に話してくれた。
そして僕は、推理していった。
4、5時間ほど話しただろうか。
これといって重大な事は、浮かんでこなかった。
「今日はこのへんでやめにしよう。」
続きはまた明日にして、僕は仲間が何か情報を掴んでいないか連絡をとることにした。
平山さんは、特に進展はないとのことだ。
エヌ藤さんもこれといってないとの事だが、一言気になった。
「そういえば、さっちゃんがパスポートの申請を少し前にしていたみたいだ。」
これといって普通の行動なのだが、なんとなく今というタイミングが気になった。
この出来事とさっちゃんについての事をたどってみよう。
あのピース復活の日からさっちゃんと僕はあまり話しをしていない。
意図的に僕を避けていたのかもしれない。
久実ちゃんが2、3度二人で店に来たことがあると言っていた。
特に問題はないようだが、僕には何か気になった。
さっちゃんが二人を殺した犯人なのか?・・・・・・・・・
しかし、証拠となるものは、何一つない
今、さっちゃんはどこに居るのだろう?・・・・・・・・・
!!!!!
早く会わなければ!
なんて気持ちの良い青空なんだろう。
僕は、久しぶりに空を眺めた。
気付けば、秋元さんが死んでからいろんな事が立て続けに起こり、自分自身の事は何も感じられない日々を送っていたような気がする。
きっと犯人は、僕より何倍も自分のことを見失っていることだろう。
「自首すればいいのに・・・・」
僕は、独り言のようにつぶやいた。
・・・・・・・・・・・・
しかし、すばらし青空だ。
僕達の心は、いつ晴れるのだろう。
あの空のように
・・・・・・・・・・・・
次の日の朝、僕はストロベリーズの前に立っていた。
秋元さんを発見した時刻に・・・・・・そして一人の女性を見つめていた。
その女性は、僕に気付いて、うなだれていた頭を起こして小声でなにか呟いた。
うまく聞き取れなかった僕は、女性に近づき声をかけた。
「大丈夫、久実ちゃん・・・・・・・」
「たけさん、話があります。警察にも話してない事です。」
一瞬いやな考えが頭の中をよぎった。
「もしかして、久実ちゃんが犯人なのか・・・・・・・・・・」
泣き出しそうな久実ちゃんを落ち着かせ、近くの僕の店に連れて行った。
そして歩き初めてすぐ泣き始めた彼女、僕は彼女の3メートル前で今までの事を頭で整理しながら歩いた。
「私、見てしまったんです。秋元さんのパソコンの中にある変なファイルを、なにをどうしたのか覚えていないんですが、偶然開いてしまったんです。」
「まずいと思ったけど、見慣れないサボテンの写真だったので、つい読みすすめました。」
「それは、幻覚作用のあるサボテンで、名前は、セブンドリームって言います。」
昔、僕も聞いたことがある。
たしか日本では、輸入禁止のサボテンだ。
なぜ秋元さんがそんなものを・・・・・・・・。
「久実ちゃん、秋元さんのパソコンは何処にあるの。」
「多分、警察だと思う。」
「取り戻そう、向こうには店の顧客名簿がいるとかなんとか言えば大丈夫だろう。だめなら平山さんにたのもう。」
二日後、僕達の手元に警察からパソコンが戻ってきた。
原田ちゃんは、待ってましたとばかりにパソコンを開け、消されているかもしれないファイルの捜索にかかった。
そう、原田ちゃんはIT企業の役員でもあり、PCのプロでもある。
心強い仲間だ。
「たけさん、ちょっと時間掛かると思うから、ここは僕一人でいいよ。見つけたら連絡するから。」
「うん、たのんだよ。」
僕の頭の中には、久実ちゃんが犯人かもしれないと言う考えは、微塵もなかった。
そして、あの三人の事が気になった。