今日も俺は、マスターとクダラナイ話でもをしようと店に向かった。
新岐阜駅からグランドホテルまで来たとき、エントランスからひとりの女性が出てきた。
もしかして・・・・・・
「この前の綺麗な人だ!」
なんという偶然!
しかし声をかける勇気も度胸もなく、俺はただ数m後ろを歩くだけだった。
少し歩いてある事に気付く。
歩く方向が同じだ!
二人の向かう場所はどうやら同じようだ。
彼女は、俺が行くいつものバーの見慣れた入り口の階段を下りた。
俺は妙な緊張を感じた。
「たばこ買ってからから店に行こ。」
独り言と度胸のなさに恥ずかしくなった。
そして少し時間をずらしてお店に入る
「マスターまいど・・・・Jack ロックちょうだい。」
「めずらしな、いつもビールのヤツが。」
心の中で「よけいな事言うな!」と叫んだ。
「一軒飲んできたから、ビールはもういいよ。」
どうでもいいウソ。
カッコつけを言いながらカウンターの端に座った
カウンターの真ん中では、彼女がロングカクテルを飲んでいる。
彼女の周りだけ空気が違う。
暗いお店の中でも彼女は輝いている。
ますます興味と興奮がわいてくる。
マスターには申し訳ないがこの店には似合わない人だ。
いや、逆にピッタリカモシレナイ・・・。
「マスター、今度のライブ来てくれるよね?」
「パンタロンズのこと忘れかけてるだろう?チケット2枚とっとくからヨロシク。」
すると、
「あの・・・パンタロンズのメンバーの方ですか?」
心臓が飛び出るかと思った。
彼女が俺に話かけてきた。
興奮を抑えてクールに振舞う。
「あ・・・そ、そうですけど。・・・俺らの事知ってるんですか?」
「妹からよく伺っています。いつも仲良くしていただいているそうで。ありがとうございます。」
「え・・・・えっと?????」
あまりの事に開いた口がふさがらない。
「なゆみの姉です。ゆかと言います。」
開いた口がさらに開いた。
声が震えて、動揺を隠しても隠しきれない。
「ゆ、ゆかさんですか・・・ギターやってます・・・・あ、あ、あつしです・・・」
声がうらがえる。
「・・・・・・・・マスターもう一杯同じの。」
「急いで!」
ゆかは、少しクスリと笑いながら、
「もしよろしければ、その一杯私にご馳走させて下さい。」
「いえ、なゆちゃんのお姉さんにそんな申し訳ないです。」
「いえ、ぜひ!」
「・・・・・・じゃあ、ごちそうになります。」
今夜の俺は、いつもより飲める気がした。
俺は、いつものバーで一人飲んでいた。
カウンターの一番奥に見慣れない女性が一人。
とてもきれいな人だ。
「多分待ち合わせだろう」とマスターが言ったので、少し残念だったが声を掛けるのはやめた。
しかし、きれいな人だ・・・・
マスターとどうでもいい会話もひと段落した頃、さっちゃんとかよちゃんが酔っ払って登場した。
「お二人さん、ご機嫌だねー。」
ひと際酔っ払っているさちよが、
「ご機嫌じゃないわよ!今日は付き合ってよ~丁度よかった!ユウヤも呼んどいたから。」
「なら直人も呼ぼうか。」
少し意地悪をした。
すると、
「・・・・・・・呼ばなくていいよ!直人くんなんか!」
さちよの顔がさらに赤くなった。
「そう、じゃあ止めとくか・・・・・・・・。」
俺は小声でかよちゃんに話掛けた。
「かよちゃん、さっちゃん何かあったの。何か機嫌悪いみたいだけど。」
「なぜかは分からないけど、朝から機嫌悪いです。私もう帰りたいです・・・・・。」
触らぬ神に祟りなし。
俺も今日はさっさと退散しよ。
するとお店の奥から
「ご馳走さまです。お幾らですか?」
あの女性だ。
待ち合わせじゃなかったのか!
マスターに騙された~
「1,200円です・・・・・・また寄ってくださいね。」
「ありがとうございます。また来ますね。では。」
声も綺麗だ・・・
今度会ったら必ず友達になろう。
楽しみが一つ増えた。
「マスター、俺も帰る。ご馳走さん!」
女性二人のブーイングを無視して、そそくさと店を出た。
それにしても綺麗な人だった・・・
「もしもし、りこだけど。さっちゃん今いい。」
「どうしたの?りこちゃん。少しなら大丈夫だけど。」
「私、昨日の夜直人くんと寝ちゃったの。どうしょう・・・・・・・。まずいよね・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・う、う~ん。」
朝いちばんから、なんて重い内容の電話なんだろう。
まずいよねと言われても、なんとも言い様がない。
『お互い大人なのだから』と言えば済む事なのかもしれない。
「大人同士なんだから、まずいっていう事はないと思うよ。直人君だってきっと・・・・・・・・。」
「そうだよね、しょうがないもんね。さっちゃんがそう言ってくれると安心する。仕事中ごめんね、また電話するね・・・・・じゃあね、ありがとう。」
「じゃあ・・・・・・・・・・。また。」
そうして電話は切れた。
しかし『大人だから』という安易な言葉で終わらせて良かったのか。
いろいろと考えながらでも、不思議と足は勝手に会社へ向かう。
朝の10時、頭もまだすっきりしていない。
仕事の準備もできていない。
朝ご飯も食べれずにイライラしたまま。
そして重い内容の相談。
あの程度の答えしかできないのも無理ないだろう・・・
「今度ちゃんと考えてあげよ!」
会社のオフィスの隣の席のかよから声がかかり、ふとわれに帰った。
ちなみにかよは、私の部下である。
「さちよさん、何か言いました?」
「ごめん・ごめん、独り言。だめねー、独り言言うようになったら・・・・。」
しかしみんな楽しんでるよなー、私も明日のコンパがんばろ!
心の中でつぶやいた。
「かよちゃん、明日のコンパ何歳位の人達なの。」
「25歳前後かな、それとさちよさん、コンパ来週ですよ!」
「・・・・そうだっけ!な~んだ・・・・・・かよちゃん、今夜飲みに行くわよ。いいわね!」
「今夜ですか・・・・・・・・・。」
「だめなの!」
「い、いえ・・・行きます・・・ご一緒します~」
「よろしく!」
玄さんを、誘おう
・・・・・・・いやユウヤにしよ!
夏のはじまりを告げるような、すばらしい日曜の朝。
ここちよい目覚めとともに、今日はうまいハンバーグが食べたくなった。
「直人でも誘って、食いに行くか。」
独り言を言いながらベットから起き上がった。
「もしもし直人、朝早くから悪いな。起きてた?」
「起きてたわけないだろう。まだ日曜の9時だろう・・・頼むよ。」
直人の後ろで女性の声がする。
どうやら一人ではないようだ。
「静かにしてくれ」と小さな声で言っているのが聞こえた。
「ごめんごめん。一緒に昼飯に行かないかなと思って。無理ぽいね。まあ、ゆっくり楽しんでくれよ。また誘うよ。じゃあ」
意味ありげに電話を切った。
一方直人の部屋では、
「淳から昼飯行かないかって誘いの電話。さすがに『りこちゃん』と今一緒だから止めておくとは言えないよ。」
「私は平気よ。直人ととの事バレても。」
「まあ~そお・・・」
そしてまた、熱い一日が始まった。
俺は直人が誰といるのか想像しながら、携帯電話のアドレスを眺めた。
「なゆちゃんに飯でもおごってやるか。」
また独り言だ。
「もしもしなゆちゃん、淳だけど起きてた?」
「おはようございます。起きてますよ。どうしたんですか?こんな朝から。」
「いやあ、昼飯一緒にどうかなって思って。日曜日は仕事休みでしょ。」
少しの沈黙の後に
「す、すいません、お昼はちょっと用事があって・・・夜じゃいけませんか?」
「そうか、残念だな。分かった、夕方位にまた電話するよ。じゃあね。」
「せっかく誘ってもらったのに、すいません」
結局今日は、一人で食べに行く事にした。
「帰りにDVDでも借りよ・・・」
また独り言だ。
今日は朝から、よくしゃべる。
しかしなゆちゃんと出会ってもう3ヶ月も経つというのに、一度も昼間に会ったことがない。
多分他のみんなもそうだろう。
さっきの電話もどこか不自然だった。
何か昼間には会えない理由でもあるのだろうか?
夕方誘って、何気無く聞いてみるとしよう。
「さて、シャワーでもあびるか。」
これで今日最後の独り言にしよう。