俺達は、月に1回岐南町にある100人程入るライブハウスで演奏している。
やり始めて1年位たっただろうか。
バンド名はザ・パンタロンズである。
ちなみに名前なんてどうでもよかったので適当につけた名だ。
みんなにも、よく言われる。
今は、もう少し考えてから名前をつければ良かったと全員思っている。
明日ライブがあるため俺は友達に見に来てくれるよう連絡し、ギターの練習をした。
といっても、ほんの15分程度だが。
俺もあまり練習する方ではない。
しかし玄さんは、「練習」の言葉すら知らないのではと思うぐらい何もしない。
しかし、演奏できてしまう。
ひそかに俺は、あの人は天才だと思っている。
一方、直人とユウヤは、いつでも完璧に練習してくるので、俺達2人はいつも怒られる。
しかし俺と玄さんは、頑なに本番主義を貫く。
その日も「明日のライブ、がんばろう」と思いながら眠りについた。
「そういえば、新曲のソロ考えるの忘れた…」
「ま、いいか…本番でがんばろう。」
これが本番主義である。
「寝よ寝よ。」
そう思い、俺は寝た。
駅から歩いて5分ほどの所に俺達のいきつけのバーがある。
大した店じゃない。暇だし・・・
でもマスターは意味もなく面白い。
たまにかわいい女の子もやって来る。
だから時間をもて遊ぶには、ちょうどいい場所だ。
19:30 当然お客は誰もいない・・・
「マスター、生ビール4つとホットドック4つね!」
お店に入ってくるなり直人が注文した。
しかしマスターの姿はない・・・
するとトイレの中から、
「ハイヨー」
と声がした。
しかしそれから5分、マスターはトイレから出てこなかった。
「マスター聞いてよ。」
「今さっき女の子がからまれてて助けたんだけど、この警察官(ユウヤ)なんにもしないんだぜ。どう思う。」
「いいんじゃないの、いつも直人が先走ってなんとかなっちゃうんだから。」
やはりマスター、よくわかっている。
「今日は朝まで飲むよ、だから全員電車で来たからね。2時で閉めるとか言わないでよ。
「こないだなんか俺、店に入ってビール頼んだ瞬間に『それ飲んだら帰ってくれよ』て言われたからね。」
「まだ12時前にだぜ、まあ慣れてるけど・・・」
直人が立て続けに話をする。
ユウヤが、嫌味いっぱいにマスターに言った。
「大丈夫、今日は付き合うよ。多分・・・」
そして長い夜が、始まった。
俺達とその子の出会いは、青春ドラマのワンシーンのように始まった。
長い夏の始まり。
その子と共に…
俺(淳)、直人、ユウヤ、玄はバンドのメンバーである。
今日も俺達はバンドの練習を終え、名鉄新那加駅から乗りなれない電車に乗り込んだ。
ほんの10分ほどの移動だが、なぜかとても心が浮かれていたのは気のせいだろうか。
きっと俺は電車が好きだったのだろう。
「来月また乗ろう…今度は一人で…」
電車での小旅行もあっという間の終わり新岐阜駅に到着した。
駅を出て馴染みのバーへ行こうと歩き出すと大きな立体駐車場の建物の陰から、何やら物騒な話声が聞こえてきた。
「なんか、誰か絡まれてるんじゃないのか?助けにいこうぜ!」
変に正義感の強いボーカルの直人が言った。
「・・・」
俺は黙っていた。
直人が走った。
俺達も後を追うように無言のまま走った。
「おまえら、何やってんだ!」
直人が叫ぶと、見たところ20歳前後の若者たちは、バッと走って逃げていった。
そして背の小さな17・18歳ぐらいの女の子がそこに立ちすくんでいた。
「大丈夫だった?」
直人が優しく声を掛けた。
彼女は、一度俺達全員を見渡して「はい…」と一言だけ言った。
そして小さく頭を下げながら小走りで去っていった。
「ユウヤお前、警察官なんだからなんでこういう時に助けに行かないんだ!いつもそうだよな仕事離れるとまったく正義感のないヤツだな」
直人が言うと、みんな一斉にうなずいた。
「いいじゃない。俺が行く前に必ず直人が行くんだから~。何か事が起これば俺はいつでも行くつもりだぜ!」
ユウヤが強がる。
「だよな。まあとにかく店に行こうぜ。ビール飲みたいよ。」
玄さんが言った。
玄さんは俺達の中では最年長だが、と言っても2つしか変わらないが誰よりも若く見える。
とてもすてきなベーシストだ。
多分タバコとビールと焼肉があれば生きていける。
そこには女性は必要ないといった生き方の人なのだ。
多分…
そんなどうでもいいような事を思いながら、俺はさっきの女の子の事を考えていた。